犬の目
いつも思ってたけど、犬って(他の動物もそうなのかもしれない)実に良く物を見てる。
人間みたいに漫然と視界に映っているんじゃなくって、常に気をはらって物を見ているような気がする。
例えば、食いしん坊のりきは、私が無意識に手の届く範囲に置き忘れた食べ物を、きちんと見ていて、主人がいなくなったら手に入れようと心の片隅にきっちりメモして、その事を決して忘れない。
森の中を散歩しているときも、その眼と鼻と耳で一体どれだけのものを見てるやら。二人には「静かな森」なんて言葉はないんだろうな。
目がいいという事を証明するエピソードは他にも一杯あるんだけれど。
さて。今日の午後の散歩でヘクターがやってきた。
二人はもちろん大喜び。りきはヘクターの飼い主、S木さんのことも大好きなので、さっそくS木さんの足元にひっくり返り「なでてくれ」と甘えている。
ヘクターはいつものように私に飛びかかり、何度も前足パンチをくらわす(笑)。
そんなヘクターに止めろよの意味もこめて、のしかかったり背中を押したりしていた。彼は穏やかだけれど少々臆病なところがある。
多分私の行為に違和感と不快を感じたのだろう。体を捻って軽く私の腕を噛んだ。エアデールテリアの特徴とも言われるソフトマウスだ。
ほんとに痛くも痒くも無い、鳥の羽でタッチされたかのような感触だった。
多分彼も「やめてくれよ」と言いたかったのだ。
その瞬間、S木さんに撫でられてうっとりしてるとばかり思っていたりきが、聞いた事の無い唸り声を上げた。私と遊んでいたヘクターが驚いて静止するほどの。
それからりきはヘクターに向かって、鼻の頭にしわを寄せながら自分が怒っている事を知らせるアクションを見せた。つまりいつもの「お姉さんのお小言」的指導に入っていったのだけれど。
擬人的に見ると「ちょっと。うちの人(=私)に馬鹿なコトするんじゃないわよ。今度そんな事をしたら私はアンタを許さないからね」といっている風に見えなくも無い。
動物と一緒に暮らして以来初めて「あっ。なんか守られたかも・・」って気分を味わったんだけど、それにしてもなんてよく物を見てるんだろう。
事の真偽はどうあれ、とにかくりきは見ていたのだ。あの微かな、一瞬の行為を。